私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「また聴かせろよ」

「私のピアノ好き?」

「そうだな」

「じゃあ、梶井さんのこと好きになってもいい?」

どくりと心臓の音が大きく鳴った。
真っ直ぐに俺を見詰める目は清く澄んでいる。
純真無垢な存在。

「だめだ」

「どうして?」

「お前の好きは本気の好きだからな」

「本気で好きって言っちゃダメなの?」

「お前に俺は必要じゃない。だから、俺にお前は必要ない」

驚いて俺を見る。
今の言葉でわかるだろ?
俺は割りきった女としか付き合わないってことを。

「ただ好きってだけじゃだめなの?」

「簡単に人を好きだとか言うな。お前みたいに何もわかってないガキは嫌いなんだよ」

これで諦めるだろ。
泣くだけ泣いて、諦めて俺じゃない優しい男と付き合えよ。
馬鹿が。

「嫌いって言わなくてもいいと思う」

見ると目に涙をためて、涙をこらえていた。
最悪だ。
これだから子供は。
俺は手を出すべきじゃなかった。
俺にとっても精神的によくないな―――

「わかった!」

突然、力強く望未は言った。

「そうか。わかったならいい」

「諦めない!私は!」

「はあ!?」
「私が梶井さんに必要な女だってこと、わからせてやる!」

ぐいっと俺のシャツを掴み、不意打ちのキスをする。
噛みつくみたいなキスは下手くそで痛かった。
望未はキスをして、どうだ!とうような顔をしていた。
さっきまで泣いていたくせに笑っている。
ガキは怖いもの知らずで困る。

「下手くそ。キスはこうだろ」

望未の後頭部に触れ、顔を近づけさせると唇を重ねた。
ウサギ、何度もキスをしたら俺から逃げられなくなるぞ。
なあ、わかっているのか?
今、俺は後悔してるよ。
お前に手をだしたことを―――
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