私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
白い鍵盤に指を高く掲げ、絶好調な笑みを浮かべた。
速いスピードで鍵盤を走る手。
ピアニストにしては小さな手だが、柔らかくちょこまかとよく動く。
楽しそうに弾く望未。
チラチラとした炎が見える。
だんだん炎は大きくなり、踊るような炎は闇を焼いていく。

「ファリャの火祭りの踊りか」

激しく情熱的に踊る。
楽しげに―――そうだな、お前は悪霊すらものともしないか。
その炎は純粋で素直で美しい。
さらにスピードがあがる。
こいつ、どこまで速く弾くつもりだよ!?
ピアノ教師にしてはちょっと型破りすぎるんじゃないか。
額に手を当てた。
こいつの火祭りのイメージは花火かよ。
鮮やかな色が目に浮かぶ。
望未は最後まで弾き終わって、得意気な顔をして俺を見た。
まさか、今のがベストだと思っているんじゃないだろうな?

「梶井さん、どうだった!?」

「どうだったじゃない。何回、ミスタッチしてるんだ?しかもなんだ。あのスピードは。連続花火か?」

「つい、気持ちが走っちゃって」

えへへっと笑っているが、あのスピードでこの曲を弾けるのはたいしたものだ。
コンクール向きじゃないが、人を楽しませる演奏だった。
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