私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
狭い手洗い場は大きめの窓がひとつあり、春の明るい日差しが入ってきていた。
カフェ『音の葉』はたくさん自然光を取り入れることができるようにしたと、店長の小百里さんが言っていた。
それなのに梶井さんの周りだけ、影ができたように暗い。

「彼女もすっきり俺と別れることができてよかったんじゃないかな」

お互いのことを好きで付き合っていたわけじゃないのだろうか。
恋人同士になるって、好きじゃないとなれないよね?
もしかして、好きじゃなくてもなれるもの?
混乱している私を見て梶井さんは笑う。

「きっと君のような子にはわからない。君に用意されるのは綺麗な恋だけなんだろうな」

「綺麗じゃない恋ってあるんですか?」

「あるよ。ドロドロしていて重くて、体が動けなくなるくらいのキツイやつ」

「どうして、そんな恋をするんですか?」

「さあね。まあ、君には無縁だ」

そう言って梶井さんは私にタオルを投げた。

「悪いけど、拭いてくれるかな」

「は、はい」

触ってもいいのだろうか。
手が震える。
だって、彼は私の憧れの人なんだよ!
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