私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「俺を?お前のほうが慰めが必要みたいだけど?」

「そんなことない」

きっと私の傷より梶井さんの傷の方が深い。

「おい。そろそろ離せ。朝からいちゃついてると思われるだろ」

「梶井さんが困るから?」

「そうだな。大人だからな。いろいろしがらみがあるんだよ」

梶井さんの声はいつもの余裕がある声じゃない。
けど、私をしっかり子ども扱いしてきた。
私をとことん翻弄する男。
だから、私は言ってやった。

「しがらみだらけの大人になるくらいなら、私は大人にならなくてもいい。ずっと子供のままでいい……!」

すぐ私のことをバカにして梶井さんは子供、子供って何度も言うけど、それなら子供のままでいてやる!
泣かないつもりだったのに泣いてしまった。
涙に弱い梶井さんはなだめるように私の頭をなでた。
その大きな手が心地よくて『子供扱いはやめて』とは言えなかった。
やっぱり私はお子様なのかな。
もっと私に触れて欲しいと思ってしまうのは。

「大人になれよ。ガキのままだと手が出せないだろ」

「梶井さんのほうがよっぽど子供だと思う。いじめっ子だし」

「俺がいじめっ子!?」

「違う?」

「誰がいじめっ子だ」

仕方ないな、というように梶井さんは私にキスをした。
いつもの浅くて軽いキス。
駄々をこねる子供をなだめるためのキス。
だから、私は仕返しをすることにした。

「私に大人のキスをして」

嫌だって言うかもしれないって思ってた。
けれど、梶井さんは何も言わずに目を細めて、唇を重ねた。
それは喰らうようなキス。
激しくて、切ない、今までで一番苦しいキスだった。
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