私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
そうじゃなきゃ、梶井さんと私の距離は少しも縮まらないような気がしたから。
涙がこぼれて止まらなかった。

望未(みみ)ちゃん!?」

私の名前を呼ぶ声に顔をあげた。
小百里(さゆり)さんがいた。
カフェ『音の葉』が近かったことを思いだし、慌てて涙をぬぐった。
小百里さんは私に駆け寄ると、サッと傘を頭の上にかぶせた。
そして、ハンカチで濡れた顔や服をふいてくれる。

「すみません」

「いいのよ。梶井さんとなにかあった?」

どうしてわかるのだろう。
小百里さんが私の顔をのぞきこんだ。
優しい目に涙がまたこぼれて落ちた。

「小百里さん。私っ……」

ただごとではないと小百里さんは察したのか、私の手をとった。

「私でよかったら、話を聞くわよ。私の部屋に寄っていく?」

「でも……」

「服をかわかしてから帰った方がいいわ。あたたかいココアもいれてあげる。ね?そうしましょう?」

雨が降っているのに小百里さんの周りだけ晴れているような気がした。
春のような微笑み。
きっと小百里さんの恋人は素敵な人に違いない。
こんな風に優しく笑いかけてもらえる恋人がうらやましく思った。
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