私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
馬鹿丁寧な文章で仕事の用件かもしれない。
今日はあの店は休みだったはずだ。
気にかけているわけじゃないが、張り紙があるのを見かけた。
さすがに昨日今日で望未(みみ)には会えない。
―――会いたくなかった。

「……なんだ。ガラにもない」

俺はどうやら、珍しく堪えているようだった。
本当に俺らしくない。
手放したことを後悔することなんてな。
笑いながら、渋木にメッセージを返す。

『しばらく待ってろ』

シャワーを浴びて着替えてからだ。
こんな精神状態じゃ出掛ける気にもなれない。
感情をリセットするため、シャワーを浴び、服を着替える。

「……あいつ」

肩に残る歯の痕―――しっかり残していった。
熱いシャワーのお湯を浴びながら、その痕を眺めた。
俺は多分、あいつといる時はいつもの俺じゃなかった。
女を癒すつもりで付き合うのが普段の自分。
けど、俺は望未を傷つけただけ。
どれだけ傷つけてもあいつは食らいついてくる。
ぽたぽたと髪からお湯が落ちていることも、目に入りそうだということも。
今は全部、忘れていた。
無意識にその噛み痕に唇を寄せて触れた。
慈しむように。

「俺は馬鹿か……」
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