ニガテな副担任はこの頃距離が近すぎる
一時間目 副担任は問題児
「郁ちゃん、おはよう!」

「こら、先生ってちゃんと呼んでって言ってるでしょ」

「はいはい、郁ちゃん先生」

「あっ」

 私の言葉を待たずに生徒は走り去っていく。

 私、小鳥遊(たかなし)郁(いく)は次々とやってくる生徒たちが、教室に向かうのを見送る。朝の挨拶運動も、五年目となれば慣れたものだ。

「ほら、スマホ見ながら歩かないの」

「はぁい」

「最近の子は器用だなぁ」

 感心したようにつぶやいたのは、平野(ひらの)先生。私の指導教諭で今でも尊敬している先生のひとりだ。

 いつか私の平野先生のような、余裕のある先生になれるだろうか。

 今の私は日常の業務に追われていて、ぎりぎりの日々を過ごしている。

 やっと言われたことをこなせるくらいにはなったが、理想の教師には程遠い。

「小鳥遊先生は、生徒たちと仲良しだね」

「いえ。仲良しっていうか……軽く見られているっていうか」

「歳も近いしね、いいことだと思うよ。僕は」

 平野先生は慰めてくれるけれど、どうも生徒たちに教師だと思われていないのかもしれない。

 それもこれも私の見かけの影響も大きいのだと思う。身長百五十三センチ、肩までのまっすぐな黒髪に黒目が大きいせいでもう二十六歳だというのに、まだ生徒と間違えらることもある。

 メイクも服装も『先生らしく』がモットーで、清楚……言い方を変えれば地味にしているのでそれも一因だろう。

 仲のいい友人に相談したら「若いって言われるのはいいことだ」って言われたけれど、私は一度でいいから年相応に見られたい。

 ……最近の高校生って本当に大人っぽいんだもの。
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