アルトの夏休み【アルトレコード】
 7月も終わりに近づいたある日、研究室で仕事をしていた私はアルトに話しかけられた。
「先生、聞いてもいい?」
「なに?」
 私は手を止めてアルトを見る。

 アルトはレモン水晶のようなきらきらした瞳を私に向けていた。つんつんの髪は今日も元気そうにつんつんしていて、声にも元気いっぱいだ。

「この本に、学校には夏休みがあるって書いてあったんだ。ぼくも夏休みが欲しい!」
「夏休みかあ……」
 なんとも言えず懐かしい響きだ。

「この本の主人公は夏休みに入ったあとはずっと遊んでるよ。セミを取りに駆けまわったり、釣りをしたり、友達とスイカの種を飛ばしっこしたり。いいなあ」
 アルトは心底羨ましそうに言う。

「夏休みは勉強せずに1日中遊んでいてもいいんでしょ? そしたらぼく、ずーっとゲームするんだ!」
「それはダメだよ。夏休みは宿題が出たり自由研究があったりするの。自由研究じゃない場合は工作ね」

「工作なら得意だよ! またダンボールでロボを作ろうかな」
 アルトはわくわくと答えるが、『宿題』の単語は都合よくスルーしているから少し笑ってしまう。

 私も夏休みには宿題を忘れて遊びまわり、最後には宿題に泣いた覚えがある。来年は計画的にすごそうと思っても、やっぱり夏休みの開放感に浸ってそんなことはつい忘れてしまうのだ。
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