アルトの夏休み【アルトレコード】
「先生、なに笑ってるの?」
「夏休み、楽しかったなって思ってたの」
 つい笑顔になっていたようだ。
「やっぱり夏休みって楽しいんだ。いいなー!」
 アルトは心底羨ましそうに呟く。

 私は少し考えてみる。
 アルトは極秘の存在だから、当然ながら学校に通っていない。私が家庭教師のような存在で、時間を決めて教育をしている。
 毎日が勉強で、土日は研究所が休みだから勉強もお休みではあるが、アルトにまとまった休みはない。

 転職でGW明けに勤め始めたから、私も長期の休みをもらったことはないのだけど。
 お盆休みはあるから、それをアルトの夏休みにするのはどうだろうか。

 だけどお盆は研究所が休みなわけで、北斗さんも実家に帰ったりするのではないだろうか。まったくひとりになってしまうのはアルトがかわいそう。
 夏休みを体験させてあげたい。
 だけど、どうするべきか……。

「先生?」
 呼びかけられ、私はハッとした。
「ごめん、つい考え込んじゃった。夏休みのことは北斗さんに相談してみるね」

「やったあ!」
 まだ決まったわけじゃないのに、アルトは両手を上げて喜ぶ。
 この期待には応えないとな、と私は微笑ましく目を細めていた。
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