アルトの夏休み【アルトレコード】
『大丈夫、俺が残ってるから』
「やだ! 先生がいい!」
 アルトが叫び、北斗さんはショックを受けたような顔になった。
 ああ、前にもこんなことあったな……と思いながら私は言う。

「アルトはもう小さな子供じゃないんだから、きちんとお留守番できるよね? それとも小さい子と同じで先生がいないとなにもできないのかな?」
「……小さくないもん」
 答える声は、小さかった。

「そうだよね。アルトはもうしっかりしてるから、だからしばらくひとりでも大丈夫って私も北斗さんも思ったの。信頼してる証拠だよ」
「信頼……」
 アルトは顔を上げて私を見た。私が頷くと、そのまま北斗さんを見る。

『そうだよ、アルト。信頼に応えて、先生に立派になったところを見せてあげよう』
 北斗さんがダメ押しをすると、アルトはやっと頷いた。

「わかった。だけど、戻ってきたらすぐにぼくのとこに来てよね」
「もちろん!」
 私が受けあうと、やっとアルトは表情を崩して笑顔を見せてくれた。


 
 夏季休暇はお盆と土日を合わせて11日から16日まで、6日間だった。
 前日まで仕事をして、11日、私はスーツケースを引いて電車に乗り、実家に向かう。

 予定では、五泊六日。前の職場はブラックでろくに帰れなかったから、ゆっくりしてくるつもりだ。
 私は端末を取り出し、アルトにメールを送る。
< 5 / 26 >

この作品をシェア

pagetop