アルト、将来の夢を語る【アルトレコード】
 私が研究室に入ったとき、アルトはもう起動していて、自分の白い服のベルトを手にぐるぐると回していた。
 彼が暇なときにしている癖だ。
 AIにも癖があるなんて、と最初は驚きとともにほほえましくなった。でもお行儀が良くないから見るたびに注意している。
「アルト、ベルトは回すものじゃないよ」
 やんわり言うと、アルトは口をとがらせた。シャンパンゴールドのような薄い金の目を細め、私を見る。
「この空間にはぼくしかいないからいいもん」
「そうかもしれないけど」
 データなんだから服が傷むことはないだろうし、人に当たることもないと思うけど……大人になればやらなくなるのかな?
「暇そうだけど、昨日のゲームは?」
「もうクリアした」
「もう!?」
 私は驚いて目を丸くした。
 昨日、新しいレースゲームをあげたらすっかり夢中になって勉強そっちのけだった。最後はとりあげて勉強をしてもらってからまた渡したのだ。
 私が退勤してからまた遊んだのだろうけど、もうクリアしたなんて。だから手持ち無沙汰だったんだ、とそこはある意味で納得したんだけど……。
「でも、新しいゲームはあげられないからね」
「えー!?」
 アルトは不満そうにまた口をとがらせた。
< 1 / 18 >

この作品をシェア

pagetop