転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!

人々の輪から離れて壁の花と化している、令嬢に……。

(ぽつんと1人で、黙って大人しくしていられるなんて……。将来有望だなぁ……)

 ぜひ婚約者にと立候補してくるご令嬢は、どいつもこいつも判で押したようにピーチクパーチクと騒ぎ立てる幼子ばかりだった。

(僕は騒がしい子よりも、ああ言う大人しい子が好きなんだけど……)

 マイセルはどこか遠い目をしながら、こちらの様子を一切気にする素振りを見せない子どもを観察した。

(あの瞳……)

 肩越しで切り揃えられた茶髪はありふれており、印象に残らぬ容姿をしている。
 しかし、じっと見ているだけで吸い込まれそうになる黒曜石の瞳は、一度見たら二度と忘れられなかった。

(欲しいな……)

 そう思い立ち、すぐさま行動に移す。

「こんにちは。1人で、何をしているの?」

 マイセルは余所行きの作り笑顔を浮かべて話しかけたが、彼女の反応は思わしくない。

(聞こえなかったのかな……?)

 待てど暮らせど、少女の口からは質問の答えが返ってこなかった。

(もう一回……)

 ――再び別の問いかけをしようか迷っていると、幼子は美しいカーテシーとともに自己紹介をした。

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