転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「ラクア男爵家の娘、ユキリと申します。今年で、8歳になりました」
こちらの質問を無視したお詫びなのだろうか? 会話がうまく成立していない状況に不快感を抱きながら、自らも名乗る。
「僕はマイセル・エンズウェイ。年齢は、君と同い年。この国の、王太子だよ」
ユキリはこちらが身分を名乗っても、顔色一つ変えずに反応を示さなかった。
(いくら年が近いとはいえ……。関わり合いになるはずのない身分の人間から話しかけられて、緊張しているのかな……)
それにしても、反応が薄すぎる。
具合でも悪いのだろうか?
「僕の、婚約者にならない?」
彼女の感情を揺さぶりながら過度な触れ合いを試みた成果は、一方的な言葉を根気よく発し続けてようやく実を結んだ。
「む、無理です!」
自己紹介の次に吐き出された言葉が、婚約の拒絶なのは気に食わないものの……。
マイセルは己の目に狂いはなかったとほくそ笑む。
(やっぱりこの子は、他の令嬢達とは違うみたいだ……)
自分に興味を持たぬ唯一無二の存在に始めて出会ってしまったら、何がなんでも腕に抱き続けたいと想うのは当然の原理であった。