転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「うちの娘と、婚約……?」
「ええ。そうです。僕の伴侶は、彼女以外あり得ない」
「婚約者候補にすら、名前が挙がらぬはずでは……?」
「この茶会に出席できた時点で、ユキリも僕の婚約者候補です。男爵と父上の合意さえ得られれば、なんの問題もない」
「あ、いえ……。そうではなく……。殿下に相応しいのは、ルアーナ公爵令嬢なのではと思いまして……」

 男爵の口からある少女の家名を耳にして、笑顔が凍った。
 ランカ・ルアーナは、マイセルが婚約者候補の中で一番関わりたくない女性だったからだ。

(王太子妃になって私腹を肥やすことしか考えていない人間なんて婚約者にしたら、この国が傾いてしまうじゃないか……)

 冷ややかな視線を向ければ、彼は額から汗を流して狼狽えた。
 このままでは自分の立場が危ういと、焦っているのかもしれない。

(ラクア男爵は、あまり聡明とは言えないみたいだね……。すぐ顔に出るのは、考えものだ)

 貴族社会において、嘘は己と家族を守る武器だ。
 それをうまく扱えないようでは、出世などまた夢の話。
 このままユキリとの婚約を強行したなら、彼女をよく思わぬ人々の悪意を一心に受け――ラクア男爵家はあっと言う間に没落しかねない。

(やっぱり、自分の目で見て確かめるのって大事だね……)

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