転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「お、お父さんったら……。心臓に悪い勘違いを、しないでよ……。私と殿下は、そんな関係なんかじゃ……」
「男爵にご理解頂き、光栄です」
「え?」
ユキリは思わず、何を言っているのかとマイセルに訝しげな視線を向けてしまう。

「次に会うときは、君との婚約が正式に決定しているといいんだけど……」

 彼はどこか寂しそうに口元を綻ばせたあと、頬に己の唇を優しく触れ合わせた。

「ひゃ……っ!?」

 あまりもの急展開に、心が追いつかない。

(私達って、今日始めて会ったばかりだよね? なんでこんなに、殿下は乗り気なの!?)

 マイセルはようやくユキリを膝の上に乗せるのを止め、上半身を起こしてくれた。

(このチャンスを逃したら、殿下から一生逃れられないような気がする……!)

 そう考えたユキリは慌てて地に足をつけると、おぼつかない足取りで父親の元まで駆けていき――その頼りない背中に隠れた。

「こら、ユキリ……。殿下にご挨拶を……」
「いえ、構いませんよ」
「しかし……」
「それじゃあ、またね」

 不敬だと叱りつける父親にその必要はないと語る王太子は、満面の笑みを浮かべてこちらにひらひらと手を振る。

(あれ……? 私の知ってるマイセルなら、こう言う時って多分……。婚約を了承するまで離さないって言うんじゃ……?)

 想像とは異なる反応に拍子抜けしながらも、ユキリは父親とともに王城をあとにした。
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