転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 どこか悲しそうに目を伏せた。

「な、何かの……間違いなのでは……。うちの娘が、聖女など……」
「ラクア男爵も見たはずです。彼女が防御障壁を発動させる姿を……」
「そうだが……。ユキリは1か月前の茶会で、ようやく人間らしい喜怒哀楽を出せるようになったんですよ。もし、この秘密が神官の耳に入れば……」
「ユキリは一生、神殿で暮らすことになるでしょうね」
「なんだと!?」

 父親と殿下の会話に割って入ったのは、彼を鬼の形相で睨み続けていたユイガだった。弟は相手が自分よりも目上の人間であることも忘れ、怒声を響かせる。

「誰かに奪われて、溜まるものか……!」
「奇遇だね、義弟くん。僕も同じ気持ちだよ」
「王太子だかなんだか知らないが、姉さんに相応しいのはこの俺だ!」
「いいや、僕に決まっている」

 2人はバチバチと火花を散らし、睨み合う。

(私はどっちとも、一緒になる気はないんだけどなぁ……。どうしてこうなったんだろう……?)

 ユキリが遠い目をしながら現実逃避していると、殿下は不自然にこちらの顔を覗き込んできた。

(なんだか、嫌な予感……。楽しそうって言うか、こっちをおちょくっているみたいな……。そんな表情をしてるような……?)
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