転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「父さんの安否は!?」
「すぐさま護衛が止めに入りましたので……。無事だとは聞いていますが……」
「あの女……!」

 弟は憎しみの籠もった仄暗い瞳をすると、苛立ちを隠せない様子で吐き捨てる。
 その姿は到底、子どもがしていい表情ではなかった。

(ユイガって、すごくませているよね……。まるで、大人が子どもになったような……)

 ユキリは脳裏に思い浮かんだ光景をかき消すと、父親が無事だと知ってほっと胸を撫で下ろす。

「お父さん……。大丈夫かな……」
「怪我が治ったら、様子を見に行くか……。こちらに来てもらおう」
「うん……」
「護衛の数は増やすよ。24時間体制で見守ってくれ」
「はっ。承知いたしました!」

 威勢よく敬礼をした男性は、踵を帰して部屋を去って行った。

「なんで……!」

 その様子をじっと見つめていたユキリは、弟が怒りの矛先を殿下へ向けたのに気づいて慌てる。

「ユイガ、落ち着いて……」
「そんなの、無理に決まっているだろう! どうして、あの女に罰を与えないんだ!」
「君の怒りは当然だけれど、今すぐに彼女を吊るし上げるのは無理だよ。証拠がない」
「あいつをどうにかしない限り、また襲われるんだぞ……!」
「ラクア男爵家の警備は強化した。2人はここで暮らすんだし、安全は保証されたようなものだよ。これ以上何かしてほしいと望むのなら、僕とユキリの婚約者を認めてからにしてほしいかな」
「それだけは、絶対に嫌だ」
「交渉決裂だね」
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