転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
「それに、ユキリは聖女なんだろ……?」
「うーん。私は、違うと思っているけどね」
「神殿にバレたら、俺達は引き離されるんだぞ!? やっぱり危険だ。人前なんか、出るべきじゃない。姉さん、俺とずっと一緒にいよう。誰の目にも触れずに、静かに暮らすんだ」

 ユイガは死んだ目をしながら、とんでもない提案をしてきた。

(異常なまでの執着心を見せる2人は、心強いんだか怖いんだかよくわかんないや……)

 ユキリはサンドイッチの間に挟まれる具材のような気分に陥りながら、苦笑いを浮かべる。

(ヤンデレサンドか……。そう言うのが好きな人は、きっと堪らないんだろうなぁ……)

 自身が愛されることを望んでいなかったせいか。
 ユキリはなんとも言えない気持ちで弟の背中に優しく指を這わせる。

「心配いらないよ。私は大丈夫だから。ね?」

 ようやく落ち着きを取り戻した弟は、勢いよく姉に抱きつくと声を震わせる。

「姉さんを守れるように、もっと強くなってみせる……!」
「うん」
「ああ……!」
 ユキリは7年後、立派に成長したユイガの姿を脳裏に思い浮かべる。
 目の下に浮かぶ隈を隠すために、長く伸びた前髪。
 腰元につけた剣の柄をつねに持ち続ける弟は、恋ラヴァで近寄りがたいオーラを常時醸し出していた。

(明るく元気な子に、育ってくれるといいんだけど……)

 これからの成長が楽しみだと考えながら、ユキリはユイガとともにベッドで眠りについた。
< 57 / 245 >

この作品をシェア

pagetop