転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 ユキリの返事を待たずに細い身体をマイセルは、こうして愛する少女を応接室から連れ出した。

「ごめんなさい。私、こんな……。取り乱すつもりは、なかったのに……」
「大丈夫だよ。ユキリが聖女の力を使いこなせないのは、いつものことじゃないか」

 なんでもないことのように言うが、責められているとしか思えなかった。
 こう言う時に心ない言葉をぶつけられると、どうしたらいいのかわからなくなる。

「男爵が一緒にいる時で、本当によかったよ。弱ったユキリを、独り占めできるんだから……」

 殿下はこちらの憔悴しきった姿を労る気などまったくないようで、嗜虐的な笑みを口元に浮かべた。
 残念ながら、目は笑っていない。

「怒ってる……?」
「うん。すごく」
「どのくらい……?」
「僕が魔法を使えたら、今すぐルアーナ公爵令嬢を塵にしたほどに」

 彼の口からは、洒落にならない言葉が飛び出してくる。
 普段のユキリであれば震え上がっているところだが、今はそんな気も起きずに殿下の胸元へ身体を預けた。

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