転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

　こちらを見つめる彼の瞳は、子どもとは思えぬほどに妖艶だ。
　頭上から冷水を浴びせられた気持ちになったユキリは、目を白黒させて混乱した結果ーー。

「ご、めん……。なさい……。私と殿下は、トッテモナカヨシデス……」

　棒読みで、彼と仲がいいと認めた。

(このままどうにか、殿下の怒りが静まってくれますように……！)

　だらだらと額から汗を流して、緊張の面持ちを隠さずにマイセルの反応を待ち続けていたからか。

「いつになったら、君は僕を好きになってくれるんだろうね……」

　ユキリの祈りは、どうやらマイセルに通じたようだ。
　殿下が悲しそうに目を伏せる。
　その間に身体を逸らし、唇が触れ合う事故を防ぐのに成功した。

(な、なんとかヤンデレルートは回避したみたい……）

　口は災いのものとは、よく言ったものだ。ユキリはより一層身を引き締めなければと硬い表情で唇を引き結び、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。