転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
(あんなにかわいらしいティナの手を、拒否するなんて……!)

 その様子を目にしたユキリは怒りに震え、弟を拘束する力を緩めた。

「わたくしは、ルアーナ公爵家のランカですわ!」
「公爵令嬢……?」
「平民が気安く触れていい人間では、ありませんの!」

 ティナは身分こそ平民だが、ルートによっては大聖女と崇められたり、貴族の隠し子と発覚したりする。

(こんなふうに公爵令嬢から、ふんぞり返った態度で接されるような子じゃないのに……!)

 自分の痛みに対しては鈍感なユキリは、大好きなヒロインに心ない言葉を投げかけられて我慢できるほど大人ではなかった。

「ユイガ」
「ああ」

 姉の腕の中で暴れていた弟は、ピタリと動きを止める。
 ユキリの声音が、普段と異なっていると気づいたからだろう。

「ロンティナがいなくなったら、好きなだけ暴れていいよ」
「わかった」

 2人は数分違いで生まれた双子の姉弟だ。
 全てを語らずとも、意思疎通ができる。
 ユキリの許可を得たユイガは、その時を待ち続ける。
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