25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
俺がどう思っていようと関係ないって、
そんな顔を、私はあの時していたんだろうか。

助手席のドアが開いた。
差し出された彼の手に、無意識に自分の手を重ねていた。
軽く引かれる力に逆らうことなく、私は車を降りた。

立ち止まった私の横に、彼の背の高さが並ぶ。

「……滝沢さん、私にどうしろって言うの?」

困惑の混じった声で問いかけると、
真樹さんはわずかに笑った。

「俺の謝罪を受け取った証拠に、プレゼントをさせてくれ」

その声は、あくまで穏やかで、けれど一分の隙もなく、彼の本心を含んでいるように感じられた。

「今日、思いもよらぬ形だったけれど……君と再会できて、本当に嬉しかった」

私は何も返せずにいた。
その胸の内にある熱を、言葉の端々から感じてしまっていたから。

「それから——」

言葉を切った彼の瞳が、まっすぐに私をとらえた。

「君の娘も、いずれ“滝沢”になる。……だから、俺のことも名前で呼んでほしい」

その一言で、私の胸がまた、音を立てて揺れた。
やっぱりこの人は、ずるい。

(真樹さん……)

心の中で呼んだその名前が、そのまま唇に乗った。

「……そうね。真樹さん」

視線を合わせたまま、私は静かに微笑んだ。

「私、プレゼントを受け取ります」

たったそれだけの言葉なのに、
彼の目がわずかに見開かれたのを私は見逃さなかった。

——“美和子、君もいずれ俺の妻になって滝沢になるんだ”

そんな言葉を、彼が心の奥でつぶやいたことなど、
このときの私はまだ知らない。



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