25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
美和子の声は、震えているようでいて、芯のある静けさを宿していた。
真樹が、わずかに目を見開く。
その視線をまっすぐ受け止めたまま、美和子はそっと言葉を継いだ。

「真樹さん。……あなたのことが好きです。愛しています」

その瞬間、時間が止まったように思えた。

呼吸が、ふと止まる。
心臓の鼓動だけが、耳の奥で強く響く。

まさか、美和子の口から“愛してる”という言葉を、
こんなに真っ直ぐに聞ける日が来るなんて——

「……え?」

かすれるような声が、真樹の唇から漏れた。
信じられない、というように、美和子の顔を見つめる。
夢じゃないかと錯覚するほど、その言葉は柔らかくて、優しかった。

やがて、喜びがじわじわと胸の奥からこみ上げてくる。

「……本当に?」

問い返した声が少し震えていることに、自分で気づきながらも止められない。

「俺のことを……愛してるって、今、君が——」

言い終える前に、美和子がそっと頷いた。

その仕草が、真樹の最後の理性の砦を崩した。

「……っ、嬉しい……」

呟くように言ってから、彼はぐっと目を伏せた。
何かを堪えるように、眉間にしわを寄せながら、美和子の手を両手で強く握る。

「……ありがとう。美和子。……ありがとう」

彼の声がかすかに震えていたのは、涙の気配だったのかもしれない。
ずっと欲しかった言葉を、ようやく受け取った男の——心からの歓喜だった。

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