25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
真樹の車に乗って、佳奈たちの新居へ向かう。
またこの助手席に乗るなんて。

「今日はお手伝い、ありがとうございました。
お忙しいでしょうに……私のことまで乗せていただいて」

美和子がそう言うと、真樹はちらりと笑った。

「たまには運動しないと、体が鈍るからね。
今日はいい運動になったよ。それより——
また君に会えて、こうしてドライブできて、俺は嬉しいんだ」


ちょっ、なに言ってるの!? なんでそんな自然に……

「君の家、すっきり片づいてて居心地よさそうだったな」

やっぱり見てたのね……ちゃんと見てる……

「美和子さん、君のことをもっと知りたい。
もし、いやでなければ……答えてほしい」

「えっ、なにを、ですか?」

「家族になるだろう?」

「……あ、そうですね……」
また、それ。勝手に決めつけて……!

「好きな食べ物は?」

「お寿司……ですかね」

「そうか。今度、行きつけに連れて行こう。楽しみにしてて」

「はい……え? ええっ?」

「家族として、大将に紹介するから」

また“家族”って……どういうつもり!?

「好きな花は?」

「うーん……いっぱいありますけど。薔薇と、霞草……かな」

「薔薇の色は赤?」

「濃いピンクも……捨てがたいかも」

「じゃあ、今度贈ることにするよ」

「え? いえ、そんな、お気遣いなく」

「また“お気遣いなく”か……」
真樹はわずかに笑って言う。

「家族のお祝いごとに贈り物をするのは、当然のことだろう?」

……なんか納得いかない。けど……

気づけば、美和子の頬がほんのりゆるんでいた。
まるで真樹との会話が、ずっと前から続いていたような心地よさ。
気がつけば、緊張も、抵抗も、少しずつほどけていた。

そうこうしているうちに、車は佳奈たちの新居前に到着した。

佳奈たちの新居前に着くと、颯真がすでに外で待っていて、車を誘導してくれた。
荷物を運び入れると、ひと段落。

頼んでおいたお蕎麦を取りに行くため、真樹は立ち上がった。
「少し他にも頼んじゃっててさ。一緒に来てもらえると助かるんだけど……」
そう声をかけられ、美和子は一瞬迷ったものの、うなずいた。

「歩いて行ける距離なんですか?」
「ああ、すぐだよ。天気もいいし、ちょうどいい散歩になる」

真樹と並んで歩く。
長身の彼が、美和子の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。
そのことに、美和子は密かにうれしさを覚えていた。

「一緒に来てくれて、ありがとう」
「いえ……」
「天ぷらも頼んであるんだ。美和子さんは、何の天ぷらが好き?」
「そうですね……シソとか、かぼちゃとか。素朴なのが好きです」
「俺もシソは好きだな。それと……シイタケかな」

ふっと笑い合う。
まるで遠い昔、まだお互いを知らなかった頃の、初めての会話のようなぎこちなさと、心地よさ。

「美和子さんは、蕎麦派? それとも、うどん派?」
「うーん、どちらも好きです。麺類全般、ですね」
「俺も麺好き。そういえば、この辺においしいうどん屋があるんだ。今度、行ってみないか?」
「そうですね……考えておきます」

お互いを探るような、でもどこかあたたかな会話。
気づけば、蕎麦屋に着いていた。

店の奥から漂う香ばしい出汁の香り。
天ぷらだけでなく、冷製茶わん蒸し、出汁巻き卵、そして季節の小鉢。
思った以上にしっかりした注文に、美和子は思わず笑みをこぼす。

その笑顔を、真樹はそっと横目で見つめた。
——こんなにも、名前を呼ばれるだけで、心が満たされるなんて。

彼の胸の奥に、じんわりと幸福が広がっていった。
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