25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
蕎麦屋からの帰り道。
日差しがやわらかくなり始めた午後、美和子はふっと表情を緩め、自ら口を開いた。

「真樹さん……佳奈のこと、よろしくお願いします」
「おっちょこちょいで、気が強いところもありますけど、でも、あの子……いつも一生懸命で、優しい子なんです」

真樹は驚いたように彼女を見てから、すぐに優しく笑った。

「ああ、わかってるよ。仕事ぶりも、俺の目でちゃんと見てきてるから」
「人望も高いしね。……何より、颯真がよく笑うようになった」
「ほんとによかったよ。あいつが彼女と結婚するって決めてくれて」

その言葉に、美和子は胸をなで下ろすように微笑んだ。

「そうなんですね……それを聞いて、ほっとしました」

「気が強いところは……君に似たのかな?」

からかうような真樹の声に、美和子は思わず吹き出しそうになりながらも、「そうかもしれませんね」と、くすりと笑って答える。

ふと、真樹が懐かしそうな目をして言った。

「お見合いのとき、言われたんだよな……“あなたのこと、大嫌いです”って。あれは、効いたなぁ。……もう二度と、君にあんなふうに言われたくないよ」

自嘲気味なその言葉に、美和子は少しだけ肩を揺らして笑った。

「……あの時のあなたと、今のあなたは違います」
「だから、もう言わないと思います」

「“思います”って……そんな。まだ可能性はあるってことか?」
真樹が慌てて突っ込むと、美和子はにんまりといたずらっぽく笑った。

「私には……強引で自己中心的なあなたの“本性”が見えていないのかもしれませんから」

「えっ、それどういう意味?」

「人って、変わる部分もあれば、変わらない部分もあります。良いとか悪いとかじゃなくて……そういうものだと思うんです」
「だから……“もう言わない”って、約束はできません」

真樹は一瞬ぽかんとしたあと、ふっと笑みを浮かべた。

「……それなら、これからも俺をちゃんと知ってもらえるように、努力するしかないな」

ちょうどそのとき、新居のマンションのエレベーターが静かに到着した。
二人の笑い声が、ささやかな空気の中に溶けていった。
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