25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
テーブルの上には、ピンクのトルコ桔梗が一輪。
朝、ふとした会話の中で花のことを話した。
――やっぱり、花が好きなんだな。
そんな小さな発見が、なぜかたまらなく嬉しかった。

蕎麦屋までの時間、颯真たちの新居への道すがらの会話も思い返す。
想像以上に弾んで、次はうどん屋にも連れて行けそうだ。
冗談めかして俺の性格を言い当ててくるあの“勝ち誇ったような顔”も、可愛くて仕方がなかった。

彼女のことをもっと知りたい――
その思いが膨らむ一方で、同時に、
「自分のことも知ってほしい」
という欲が、もう抑えられなくなってきている。

どうやら本が好きなところも似ているらしい。
タクシーの中で、運転手と本の話題で盛り上がったときの彼女の反応――
あんなに楽しいタクシーの時間は、今までにない。
本屋でのひとときもそうだ。
隣に誰かがいて、ただ静かにページをめくるというだけの時間が、あんなにも満ち足りたものになるとは、知らなかった。

彼女が夢中になって読んでいた推理小説。
ふだん手に取らないジャンルだけど、なんだか読みたくなってきた。
「読んだら、俺にも貸してくれ」
そう伝えたことで、次に会う口実ができたのも、密かに嬉しい。

本屋を出て、彼女と並んで歩いた地下鉄までの道。
……あのまま一緒にいたら、きっと、彼女に触れてしまっていた。
だから俺は、笑顔で手を振った。紳士を気取った。
――そのはずだったのに。

あの時、彼女が読書から顔を上げた瞬間。
ほのかに熱を帯びた頬と、きらきらと光る瞳。
息をのむほど美しくて、思わず手が伸びそうになった。

(危ないな、俺)

でも、それも悪くない。
こんな気持ちになるのは、何年ぶりだろうか――

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