25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
エレベーターの扉が閉まったあとも、真樹の胸は騒いでいた。
(……まさか、彼女が)

案内された個室の扉が開く。
着物の裾を少し持ち上げて、あの女性──美和子が、静かに現れた。

一礼したあと、真樹の両親と、美和子の両親へと深々と頭を下げる。

「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。……実はロビーで、緊張していたせいか、不注意で転んでしまって……」

少しはにかんだ笑顔だった。打算のない、素直な表情。あんな出来事のあととは思えないほど、凛としていた。

席に着くと、やがて料理が運ばれ、親同士の会話が始まった。

「○○商事のご長男とあれば、そりゃ引く手あまたでしょう」

「いえいえ、うちの息子はまだまだでして……」

笑い声が弾む中、美和子は無理に話に加わろうとはせず、かといって所在なさげでもない。
丁寧に箸を持ち、静かに、一口ずつ、料理を味わっていた。どれも美味しそうに、けれど上品に食べる。その所作が、驚くほど美しかった。

(……この子が、欲しい)

真樹は、その場で確信していた。
この笑顔を、誰にも見せずに、俺だけに向けてほしいと。
着物を濡らしても笑顔で受け流す強さと、はにかみの可憐さ。
どんな育ち方をすれば、こんな女性になるのか。

今まで女に不自由したことはなかった。向こうから寄ってきて、勝手に舞い上がって、勝手に離れていった。だが、美和子は違う。

(当然、この子が俺の妻になる)

──そう思い込んで疑わなかった。

けれど、その傲慢さが、25年前のあの悲劇に繋がっていた。
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