25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「よし」
そう言って立ち上がると、美和子はクローゼットを開け、軽やかなワンピースを手に取った。
春の柔らかな陽射しが窓から差し込む。空は晴れていた。
お気に入りの小さなトートバッグに財布と本を一冊、そしてハンカチを入れる。化粧はほんのり、口元に赤みを足した。
「行ってきます」
玄関を出ると、少しだけ空気が冷たい。でも、胸の奥がふわっと温かかった。
電車に揺られながら、目についた駅で降りてみる。
何の予定もない。ただ、「いいな」と思ったら立ち寄ってみる。そんな一日。
これまで家族を守ること、佳奈を育てること、自分が大黒柱にならねばと生きてきた日々。
けれど今は、自分の心に問いかけてみてもいいのかもしれない。
──私、何がしたい? どこに行きたい? どう生きたい?
駅前の商店街をぶらりと歩いてみる。
古本屋があった。少し入りづらそうな入り口。でも、懐かしい匂いに誘われて、ふらりと入る。
ふと手に取った詩集のページに、こんな言葉があった。
「思い出は、時々背中を押す。あの人の声のように」
涙が、ほんの少しだけ、こぼれた。
信吾の声がするようだった。
「君は、どうしたい?」
いつだってそうだった。答えを強要せず、ただ問いかけてくれた人。
だから今も、答えは自分の中にしかない。
古本屋を出たとき、目の前に小さなカフェがあった。
ウッディな看板に「珈琲と、本と、静かな時間」と書いてある。
吸い寄せられるように扉を押すと、店内には柔らかな音楽が流れていた。
そう言って立ち上がると、美和子はクローゼットを開け、軽やかなワンピースを手に取った。
春の柔らかな陽射しが窓から差し込む。空は晴れていた。
お気に入りの小さなトートバッグに財布と本を一冊、そしてハンカチを入れる。化粧はほんのり、口元に赤みを足した。
「行ってきます」
玄関を出ると、少しだけ空気が冷たい。でも、胸の奥がふわっと温かかった。
電車に揺られながら、目についた駅で降りてみる。
何の予定もない。ただ、「いいな」と思ったら立ち寄ってみる。そんな一日。
これまで家族を守ること、佳奈を育てること、自分が大黒柱にならねばと生きてきた日々。
けれど今は、自分の心に問いかけてみてもいいのかもしれない。
──私、何がしたい? どこに行きたい? どう生きたい?
駅前の商店街をぶらりと歩いてみる。
古本屋があった。少し入りづらそうな入り口。でも、懐かしい匂いに誘われて、ふらりと入る。
ふと手に取った詩集のページに、こんな言葉があった。
「思い出は、時々背中を押す。あの人の声のように」
涙が、ほんの少しだけ、こぼれた。
信吾の声がするようだった。
「君は、どうしたい?」
いつだってそうだった。答えを強要せず、ただ問いかけてくれた人。
だから今も、答えは自分の中にしかない。
古本屋を出たとき、目の前に小さなカフェがあった。
ウッディな看板に「珈琲と、本と、静かな時間」と書いてある。
吸い寄せられるように扉を押すと、店内には柔らかな音楽が流れていた。