25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
真樹は、美和子のマンションへと車を走らせていた。もうすぐ——もうすぐ彼女と、同じビルで暮らせる。それを思うたび、胸の奥が熱く満たされていく。

彼女にはまだ何も話していないが、準備はすべて整えてある。電化製品の設置も、ガスや水道の開通も、すでに完了済み。家具の搬入も済ませた。今日からでも、すぐにでも住める部屋だ。

高層階ゆえに、カーテンがなくても不自由はないが、美和子の入居後に選ぶカーテンが、最後の仕上げになる予定だ。彼女の好みに合うものを、きっと。

真樹の部屋に置かれた家具は、すべて彼女が「好き」と言ったものだった。あの日、家具屋を巡りながら、「もしまた広い部屋に住むなら、どんな家具がいいと思う?」と聞いたとき、美和子は「そうですね、これがいいかな」と笑いながら手に取った家具たち。何気ないその仕草を、真樹はすべて記憶していた。そして、すべて——用意した。もちろん、ベッドも。二人で眠ることを想定して、同じデザインのまま、ひとまわり大きなものに変えて。

あの日の家具屋も、実は貸切だった。週末にも関わらず閑散としていたのは、店内にいたのがすべてサクラ、つまりスタッフだったからだ。美和子は「空いてるんですね」と不思議そうに言っていたが、気づくことはなかった。

値札も事前にすべて外させていた。彼女が「これくらいかな」と思える範囲で請求するように指示を出し、差額は真樹が負担した。

マンションの契約も同じだ。美和子が支払う家賃は、実際よりも低く設定されている。真樹が自分の部屋を購入した際、彼女の賃料との差額を一括で支払ってある。電化製品もオプションという形を取りつつ、選ばせた。美和子はそれが契約に含まれていると信じている。

不動産担当者にはこう言わせた。「これは弊社と滝沢様の特別な関係による優遇措置です。他の居住者にはお話しなさらぬよう」。もちろん、真樹の部屋には、美和子とまったく同じ電化製品が設置されている。

——あとは、彼女の選ぶカーテンだけ。

この日を、どれほど待ち望んだことだろう。同じ空の下、同じ建物の中で息をしていられる。その事実だけで、真樹の心は幸福に満ちていた。

車を止めると、そっとドアを開け、彼女のマンションのエントランスへと足を運ぶ。
すべては、ここから始まる。

< 43 / 102 >

この作品をシェア

pagetop