25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
美和子の引っ越しの荷物は、佳奈のときよりずっと少なかった。
だから作業はあっという間に終わった。
「最後にもう少し掃除しておきたいの」と美和子が言い、真樹も一緒に手を動かした。
高いところや届きづらい場所は、真樹がさっと拭きあげていく。
二人で並んで雑巾を持つ時間は、まるで昔からの夫婦のように自然だった。
ひととおり掃除が終わると、美和子がそっと声をかけた。
「……あの、真樹さん。お腹、空いていませんか? おにぎりを作ってきたんです」
そう言って、カバンからタッパーウェアを取り出す。
「空いてる。ぜひ、いただこう」
「定番なんですけど……鮭と、おかかと、梅干し。どれがいいですか?」
「うーん……全部食べたいな」
真樹が少年のように微笑むと、美和子も笑って言った。
「いいですよ。全部どうぞ、小さめに作ってきたので」
そうして差し出された手のひらサイズのおにぎりを、真樹はひとつ手に取る。
「お茶、買ってこようか? 何がいい?」
そう言いかけた真樹に、美和子がバッグから水筒を取り出して差し出す。
「温かい緑茶でよければ、ありますよ」
「いいね、それもいただこう」
湯気の立つお茶をうけとって、一口含んだ真樹がふと目を細めてつぶやいた。
「……うまいな。手作りのおにぎりなんて、何年ぶりだろうな」
「その梅干し、私の手作りなんですよ。どうですか?」
「え、本当に? うまいよ。ありがとう。手間がかかって大変じゃないのか?」
「梅酒が好きで、作りはじめたのがきっかけなんです。気づいたらはまってしまって。今では市販のは物足りなくて。作りながら季節を感じられるのも、楽しみで」
「……そうか。それじゃあ、今度は梅酒もごちそうになろうかな」
「ぜひ、そうしてください」
二人の間に、春の陽だまりのような、柔らかい時間が流れていく。
おにぎりを食べ終えると、真樹が穏やかに問いかけた。
「そろそろ、行こうか。忘れ物はないか?」
ちょうどそのとき、不動産売買の担当者がやってきて、手続きの完了とともに鍵が手渡された。
「……ありがとうございました」
美和子は深く頭を下げ、静かに振り返ることなくマンションを後にした。
その表情は、どこかすがすがしく、そして少しだけ、名残惜しさを帯びていた。
だから作業はあっという間に終わった。
「最後にもう少し掃除しておきたいの」と美和子が言い、真樹も一緒に手を動かした。
高いところや届きづらい場所は、真樹がさっと拭きあげていく。
二人で並んで雑巾を持つ時間は、まるで昔からの夫婦のように自然だった。
ひととおり掃除が終わると、美和子がそっと声をかけた。
「……あの、真樹さん。お腹、空いていませんか? おにぎりを作ってきたんです」
そう言って、カバンからタッパーウェアを取り出す。
「空いてる。ぜひ、いただこう」
「定番なんですけど……鮭と、おかかと、梅干し。どれがいいですか?」
「うーん……全部食べたいな」
真樹が少年のように微笑むと、美和子も笑って言った。
「いいですよ。全部どうぞ、小さめに作ってきたので」
そうして差し出された手のひらサイズのおにぎりを、真樹はひとつ手に取る。
「お茶、買ってこようか? 何がいい?」
そう言いかけた真樹に、美和子がバッグから水筒を取り出して差し出す。
「温かい緑茶でよければ、ありますよ」
「いいね、それもいただこう」
湯気の立つお茶をうけとって、一口含んだ真樹がふと目を細めてつぶやいた。
「……うまいな。手作りのおにぎりなんて、何年ぶりだろうな」
「その梅干し、私の手作りなんですよ。どうですか?」
「え、本当に? うまいよ。ありがとう。手間がかかって大変じゃないのか?」
「梅酒が好きで、作りはじめたのがきっかけなんです。気づいたらはまってしまって。今では市販のは物足りなくて。作りながら季節を感じられるのも、楽しみで」
「……そうか。それじゃあ、今度は梅酒もごちそうになろうかな」
「ぜひ、そうしてください」
二人の間に、春の陽だまりのような、柔らかい時間が流れていく。
おにぎりを食べ終えると、真樹が穏やかに問いかけた。
「そろそろ、行こうか。忘れ物はないか?」
ちょうどそのとき、不動産売買の担当者がやってきて、手続きの完了とともに鍵が手渡された。
「……ありがとうございました」
美和子は深く頭を下げ、静かに振り返ることなくマンションを後にした。
その表情は、どこかすがすがしく、そして少しだけ、名残惜しさを帯びていた。