25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「真樹さんが……私を、好き?」

戸惑いを隠せないまま、美和子は小さな声でつぶやいた。

真樹は彼女をそっと抱き寄せたまま、まっすぐに答えた。

「……ああ。美和子のことが好きだ」

その声は穏やかで、でも揺るがなかった。

「……嘘?」

「嘘じゃない」

静かな断言のあと、真樹は淡々と、けれど熱を込めて言葉を紡いでいく。

「好きな女じゃなかったら、何度もデートなんてしない。自分のお気に入りの店に連れて行こうなんて思わない。
大切な休みを使いたいとも、夜にコンビニへ行くのを心配することもない。守りたいなんて、思わない。
まして――好きでもない女が作った飯なんて、食いたいとも思わないし、彼女の家に上がりたいとも思わない」

そこで一呼吸置いて、真樹は優しく問いかける。

「……これでも、まだ信じられない?」

胸の奥をぎゅっとつかまれるような思いで、美和子は目を伏せた。

「……わからないの。いきなりそう言われても……なんて答えていいか、わからない」

「いいよ。今は何も考えなくて」

真樹の声は、ますます柔らかくなる。

「ただ、俺の気持ちを知ってほしかっただけ。……やっと、言えたんだ」

その言葉に、美和子がゆっくり顔を上げると、真樹がふっと笑った。

「颯真とも話した。佳奈さんにも、ちゃんと許可をもらったよ」

「……佳奈に?」

「うん。『お母さんの幸せが嬉しい』って言ってくれた。
美和子は鈍感だから、きちんと言葉で伝えてあげてくださいって。応援してくれたよ」

美和子は息をのんだ。あの娘の、あの笑顔が脳裏によぎる。

「だから――これからは、美和子に全力で行く」

真樹の瞳が真っ直ぐで、美和子は言葉を失った。

「……美和子は、俺にただただ、愛されればいい」

その言葉の余韻がまだ消えないうちに、真樹がふいに言った。

「……それより、美和子。俺、まだ腹が減ってる」

「え?」

「お茶漬けを頼む。それから、もう一本飲んでもいいか?新発売のやつ、気になってたんだ」

すっかりご機嫌な顔になって、にやりと笑う真樹。

その様子に拍子抜けして、美和子も思わず笑ってしまった。

「……お茶漬け?はい、今、作りますね」

頬の熱がひかず、美和子は両手で顔を覆うと、火照ったままキッチンへと向かった。
背中にはまだ、彼の言葉が、優しく残っていた。
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