25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
当たり障りのない会話の応酬が続き、空になったグラスや皿が少しずつテーブルから下げられていく頃──
ようやく、食事会もお開きの雰囲気になってきた。

そのタイミングで、佳奈が口を開いた。

「私たち、結婚式はまだ先でもいいかなって思ってるんです。でも……婚約者として、同棲を始めたいって思ってて」

隣の颯真くんが、真剣なまなざしでうなずく。

「新しい生活の準備も、少しずつ始めたいんです」

彼の声は穏やかで、しっかりとしていた。
そしてなにより、佳奈
(ほんと、親が思ってるよりずっと、しっかり進んでるのね……)

和やかな空気のまま、そろそろお開きにという頃合い。
ふいに、真樹さんが口を開いた。

「連絡先、交換しておきましょう」

(えっ……)

思わず言葉を探しながら、やんわりかわそうとする。

「結婚するまでは、娘を通してで十分じゃないでしょうか」

だが、相手は“かつての自己中心男”だった。

「でも、もうすぐ“家族”になるわけですから。それに、颯真は海外出張も多い。秘書の佳奈さんはよく同行しますし」

「……?」

「万が一のためにも、連絡手段はあった方がいいと思いますよ」

理詰めで押し切られ、しぶしぶスマホを取り出して連絡先を教える。
本当に、しぶしぶだった。

「緊急時以外は、控えてくださいね」

そう言いかけた瞬間、彼の顔がすっと近づいた。
低く、静かな声が、耳元に落ちる。

「……あんまり渋ると、子供たちに怪しまれるよ」

(──うっ、そう来たのね)

不覚にも、心の奥が一瞬だけざわついた。
その声が、あのとき庭で聞いた声と同じだったことに、気づきたくなかった。
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