25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
ホテルのロビーを出ると、佳奈と颯真くんは寄り添って歩きながら「これからちょっとデートしてきます」と笑った。
「気をつけてね」と手を振って二人を見送った後、私も駅に向かって歩き出す。

そこへ、背後から声がかかった。

「車を回してある。送るよ」

振り返ると、真樹さんがスマートキーを手に持ち、当然のような顔をしていた。

「いえ、それには及びません。このあと予定がありますから」

少し距離を取りながら、私はきっぱりと断った。

「予定?」

「ええ。久しぶりにデパートに寄って、買い物でもして帰ろうかと。新しい靴が欲しいと思っていたところで」

「ああ、そうですか」

彼はわずかに口元をゆるめてうなずいた。
これでさよなら──そう思った瞬間。

「だったら、その前に少しだけ。話がしたい」

一瞬、立ち止まって振り向く。
ほんの少しだけ目を細めて、真っ直ぐこちらを見つめてくるその目に、25年前の強引な青年の影がかすかに重なる。

「短くていい。……五分だけでいいから」

私は、すぐに言葉を返せなかった。
“さよならのはず”だったのに。
“緊急時以外は連絡しないで”と、さっき自分で言ったばかりなのに。

けれど、あのとき庭で告げられなかった言葉──「あのお話があるんです」と言いかけた私の口を、キスで塞いだあの日の続きを、彼もどこかで気にしていたのかもしれない。

……そう思うと、断る理由が少しだけ揺らいだ。

「……五分だけです」

「ありがとう」

真樹さんは、初めて少しだけ安心したように、優しく微笑んだ。




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