25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「また連絡する、かあ……」

ぽつりとつぶやいて、メモを見つめる。
(忙しいのよね、きっと。社長さんだもの。私なんかに、かまってる暇なんて……)

スマホを手にしかけて、すぐに置いた。
(ううん、メッセージなんて送らないほうがいい。
私のほうが、振り回されちゃう。ちょっと落ち着こう……)

深呼吸をひとつして、美和子は心を整えようと決めた。
今日は、携帯を見ずに過ごしてみよう。
そう自分に言い聞かせるように、スマホの電源をそっと切った。

手帳を開くと、ふと目に留まった文字。

――「信吾 命日」

(ああ……もうすぐだったんだ)
佳奈と一緒に行く年もあったけれど、
今日は……一人で行こう。

(信ちゃん……ごめんね。なんだか、いろんな感情で心がいっぱいで。
でも、あなたに会いたくなった。静かな場所で、ちゃんと自分と向き合いたいの)

信吾の墓は、電車を乗り継いで二時間以上かかる場所にある。
でも、今から出れば、夕方までには帰ってこられる。

よし――

気持ちを切り替えるように、美和子は立ち上がり、支度を始めた。
ネイビーのシャツワンピースを選び、薄くメイクをして、鞄に手帳と財布と文庫本を入れる。

(今日は、自分のための日。
過去にも、今にも、流されないで。
ちゃんと、一人になって、自分に戻ろう)

玄関の扉を開けると、ひんやりとした初夏の風が、そっと頬をなでた。
< 73 / 102 >

この作品をシェア

pagetop