25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
真樹が去ったあと、美和子はしばらくソファに座ったまま、ぼんやりと宙を見つめていた。放心――そんな言葉がぴったりだった。

もう、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
あのキスも、あの手も、すべてが心地よくて――気持ちよかった。
真樹の強引さに、どうして私はいつも流されてしまうんだろう。
でも……嫌じゃない。むしろ、嬉しかった。

言葉や態度だけじゃない。
あのキスの熱、背中を撫でる優しい手、耳元に落とされた囁き――
そのすべてが、女として求められていると感じさせてくれて。
身体の奥がじんわりと熱を帯びて、息を呑むたびに何かが目覚めていく。

はしたなく、声を漏らしてしまった。
でもあのとき――「可愛い」って言われた。
こんな歳なのに。母親なのに。
なのに、どうしてこんなにもときめいてしまうの?

……でも。
今日は夢じゃなかった。
はっきりと言ってくれた。「愛しているよ」って。
しかも、二度も。

どうしよう――
もっと愛されたいって、思ってしまってる。

自宅に戻った真樹は、無意識のうちにパジャマに着替えていた。
ベッドに身体を沈めたものの、まぶたの裏には先ほどの美和子の表情が浮かんでくる。

あの唇の柔らかさ。
背中をそっとなぞったときの、わずかな震え。
頬を染めて目を逸らす、その仕草。

……疲れていたはずなのに、全身が火照って眠れそうにない。

彼女は嫌がらなかった。
むしろ――受け入れていた。
それでも、あのまま抱くわけにはいかなかった。

墓参り――亡き夫の命日が近いと言われた瞬間、自分の中の冷静さがかろうじてブレーキをかけた。
嫉妬なんて感情、とうの昔に捨てたはずだった。
それなのに。

もうこの世にいない男に、焼き尽くされるような嫉妬を覚えるなんて……
本当にどうかしてる。

だけど、それでも、彼女が好きだ。
ただ手に入れたいんじゃない。
あの静けさを湛えた目を、自分だけのものにしたい。
もう誰にも触れさせたくない。

「……早く、美和子の口から聞きたい。愛しているって」

真樹は目を閉じた。
記憶の中の彼女の熱に、自分の欲望がまた疼き出す。

もっと啼かせたい。
もっと彼女の「女」を引き出したい。

……焦るな。
焦らず、でも確実に――奪いにいく。

月明かりが静かに差し込む部屋で、真樹は唇を引き結んだまま、眠りにつこうとしていた。

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