25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
美和子は、ほとんど毎回のように真樹の愛撫を受け入れていた。
甘く緩やかな時間は、実際にはそれほど長くはない。けれど、執拗に、焦らすように触れられることで、そのひとときは永遠にも感じられた。

真樹は、いつも去り際にだけは淡々としていた。放心したままの美和子の額に、優しくキスを落としながら、「愛しているよ。おやすみ」と静かに囁き、背を向けていく。

最後まで抱かれることはない。
むしろ、美和子が触れてほしいと願う場所には決して手を伸ばさず、ただ、じわじわと女の熱を呼び覚ましていく。
じらされているのだとわかっていても、拒めない。
恥ずかしくて、自ら懇願することもできない。

甘く、狂おしい――
その時間が、美和子の奥底で眠っていた“女”を、静かに、確かに目覚めさせていく。
真樹は、美和子の変化に満足している。それは、彼の目の奥の微かな火に気づくたびにわかってしまう。

——まさか、自分が。
50歳を前にして、こんなにも“女”であることを、思い知らされるなんて。
そんな戸惑いと歓びの狭間で、美和子は静かに、そして確かに、真樹に溺れていくのだった。



今夜、真樹は会食だという。
少しだけ肩の力が抜けて、美和子は仕事帰りにデパートへ立ち寄ることにした。
ずっと気になっていた、あのリップの新色を見たかったからだ。

化粧品売り場の明るい光のなか、カウンターに腰を下ろしてプロの手でメイクのアップデートを受ける。
もっと綺麗になりたい。もっと——愛されたい。
その無意識の願いが、美和子の中の女性を、そっと、けれど確かに目覚めさせていく。

ほんのり血色を宿すチークと、艶のあるローズベージュのリップを購入し、エスカレーターでランジェリーショップのある階へ向かう。
最近始めたストレッチと軽い運動のせいか、身体のラインが少しずつ変わってきた気がして、サイズを確認するのがもう習慣になっていた。

「華やかで、でも上品なものを見せてください」

店員にそう告げると、彼女は微笑んで、二つのセットを差し出した。
黒のレースが基調の、透け感のあるランジェリー。そして、光沢の美しいネイビーのセットアップ。
試着室でそっと身に着けてみる。

黒いレースのランジェリーは、想像以上にセクシーだった。
けれど、肌の白さを引き立てて、どこか品がある。
ネイビーは、まさに“自分らしさ”を感じさせる色。肌に吸い付くような光沢が、ひそやかな艶を演出していた。

「お客様、とてもお似合いですよ」
店員の声に導かれ、さらに差し出されたのは、アイボリーホワイトのシルクのスリップとローブのセット。
やわらかな光沢のなかにレースが繊細に浮かび上がる。
美和子は、それを見た瞬間に息をのんだ。
“これを纏いたい”——その感覚だけで、すべてを購入することにした。

帰宅後、シャワーを浴びて肌を整え、
新しいスリップとローブに腕を通す。
すべらかなシルクが肌を撫でるたび、心までも優しくときほぐされていくようだった。

鏡に映る自分を見つめて、ふっと笑みがこぼれる。

「我ながら、悪くないわね……」

わくわくしてるなんて、まるで少女みたい——
自分で自分にそうツッコミながらも、心は浮き立っていた。
そろそろ美容室にも行こうかしら。そんな思いもふいに湧き上がってくる。

お茶を淹れよう。
テーブルには、買ったばかりの雑誌。
静かな夜が、なぜだかとても贅沢に感じられる。

キッチンでお湯を沸かす音が、心地よく響いた。

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