25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
「俺は、君を手に入れるためなら、何だってする。優しさでも、強引さでも……なんなら、狂気すらも、厭わない」

真樹の声は、静かな焔のように揺れていた。
それは怒りでも激情でもなく、ただただ確信と支配の熱を孕んでいた。

そして次の瞬間、さらに鋭く、美和子の胸の奥を貫くような言葉が落ちる。

「たとえ君が逃げたとしても、俺は……必ず捕まえる。欲しいものは、どんな手を使ってでも手に入れる。君も──例外じゃない」

その眼差しは、微笑みを湛えながらも、逃げ場のない檻のように静かに迫ってきた。
獲物を射抜く猛獣の目──けれどそれがなぜか、美和子の奥に甘い疼きを呼び起こす。

真樹はゆっくりと立ち上がり、部屋の照明を落とした。
やわらかな薄暗がりが、空間を静かに包み込む。

そして、いつものように、美和子のもとに戻ってくる。

真樹の手が、美和子の頬に、うなじに、鎖骨に──
まるで確かめるように、触れた。
それは優しさではない。彼女の思考を止め、抗う力を溶かしてしまうための、静かな“術”だった。

何度も繰り返されてきたはずの手順。
けれどそのたびに、美和子は無力になっていった。

愛しさと執着が絡み合う指先が、彼女の肌に記憶を刻んでいく。
真樹は一言も発さず、ただ美和子の息遣いと反応をたしかめるように、長く、丁寧に触れ続けた。

やがて、美和子の瞳から焦点が消え、思考が止まり、ただ彼の愛撫に身を委ねていた。

それを見届けた真樹は、やがてそっと美和子から離れ、彼女の額にキスを落とす。

そして、何事もなかったかのように――
いつものように、音も立てず、美和子の部屋を後にした。
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