25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
マンションで真樹の一途な想いに触れたあと、美和子はその夜、ふたたび病室へ戻った。

彼の手をそっと握る。
あたたかい。けれど、まだ目を開ける気配はない。

「……ねえ、真樹さん」
囁くように、彼の名前を呼んだ。
「あなた、ずるいわ。ずっと私に黙って、あんなにたくさんのこと……」

「何も言わないで、全部、あなたが背負ってくれてたのね……」

美和子の目から、再び静かに涙が落ちる。
その時だった。

かすかに、指先が動いた気がした。

「……真樹さん?」

ベッドの上の瞼が、ゆっくりと震える。

「……み……わこ……?」

掠れた声が、喉から漏れた。

美和子は息をのんだ。
「真樹さん……!」

彼の目が、薄く開かれた。焦点が合わず、揺らいでいたが──やがて、彼女を見つけた。

「……夢、じゃない……?」

「夢じゃないわ」
美和子は震える声で言った。「私はここにいるわ。真樹さん……!」

「……君が、無事で……よかった……」
微かに笑って、彼はそう言った。

「……ほんとに、バカですね……」
美和子は泣き笑いながら、その手をぎゅっと握りしめた。

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