花嵐―はなあらし―
それからわたしは、ご飯が炊けるまでの間に味噌汁を作り、炊き上がる少し前から豚の生姜焼きを作り始め、炊飯器の炊き上がりを知らせる音と共に料理を完成させた。
そして、テーブルに料理を運び、冷蔵庫からチューハイを出して、「お疲れ!」と乾杯をする。
仕事後のお酒はやっぱり身体に沁みて、ついつい溜め息を漏らした。
「じゃあ、頂きます!」
「召し上がれ。」
「わぁ、旨そう!」
そう言ってわたしの作った豚の生姜焼きを頬張る十和。
「旨い!」と言って白米をかき込み、わたしはそんな十和の姿を見て愛おしく思った。
何だろう、この感情は。
今まで十和と一緒に居て、初めて感じる感情だ。
十和が遠い存在に感じて、それが怖くなって、、、
それを引き止めたくて会いに来て、、、
"離れない"という言葉に安心してるわたし。
十和は、わたしのものでもないのに、そう思うなんておかしいよね。
いや、"もの"って思うのがおかしいのか。
そんな事を考えながら、わたしは十和の側でご飯を食べて、わたしのごく普通の料理を喜んで食べてくれる十和と日付が変わるまで中学時代の懐かしい話をしたりして過ごし、この日は十和の家に泊まらせてもらったのだった。
それから一週間が過ぎ、わたしは十和の"離れない"という言葉に安心したまま、新社長の就任式パーティーを迎えていた。
新社長就任式のパーティーは全社員が参加の為、凄い人数の社員たちが立食パーティー形式で賑わっており、大勢が苦手なわたしはその人数の多さに圧倒されてしまっていた。
こんな時、思い浮かぶのは修ちゃんの顔。
でも修ちゃんは秘書課だから、きっと忙しいよね。
「それでは、新社長の神成創さんから挨拶をお願いします。」
そう言う常務の言葉でステージに姿を現した新社長の神成創さん。
神成創さんがステージに上がった瞬間、会場の雰囲気がガラリと変わる。
背筋がピシッとするような、その雰囲気の中でわたしは、ステージに上がりスタンドマイクの前に立つ創さんの姿に目を惹きつけられた。
目鼻立ちの整ったクールな印象の創さんは、無造作に遊ばせた黒髪を靡かせながら一礼をして、挨拶を始めた。
この人が新社長かぁ、、、
か、格好いい、、、
まだ28歳って修ちゃんが言ってたけど、仕事が出来るって感じでこんな大勢の前での挨拶にも堂々とした立ち姿にわたしは目を奪われ、挨拶なんて全然耳に入ってこなかった。


