響け！月夜のアジタート

始まりは一通の手紙

午前零時。真っ赤な月が静寂に包まれた街を照らしていく。誰もいない夜道を一人の人物が走っていた。

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

黒いローブのフードを深く被り、荒い息を吐きながら足を動かす。脇腹が痛む。しかし、足を止めることはできない。

「これを届けなくちゃ……！」

その人物はポストの前で足を止める。肩が大きく上下に動いた。数十秒後、呼吸を整えてからローブの人物は懐から一通の手紙を取り出す。そして、ポストに投函した。

「どうか、あの人に届きますように……」

ローブの人物は強く願う。その想いに応えるかのように、空に浮かぶ星が輝いた。



この世界は摩訶不思議な存在で溢れている。

魔法使いや呪術師、獣人や異能力者の存在が当たり前で、何の力もない普通の人間は一割ほどしかいない世界だ。

魔法使いのレオンハルト・ジッキンゲンは外から聞こえるトランペットの音で目を覚ます。華やかな演奏に耳を傾けながら、レオンハルトはベッドから出てベランダに出る。涼しい風がオレンジがかった髪を撫でた。