『堕ちて、恋して、壊れてく。』 ―この世界で、信じられるのは「愛」だけだった。
『この日常が、永遠に続くと思ってた。』
昼下がりの教室。
窓の外には、ゆるく揺れる桜の木。
春の陽射しが差し込む中、教室の一軍席──前列の窓際は、今日も騒がしい。
「ねえ見た?今日の望空のインスタ、ヤバくない?」
「脚長っ!スタイル良すぎじゃない?」
「モデルの撮影ってどこでやってんの?まじで世界違いすぎ」
机の上でメイク直す女子たち。
その中心にいるのは、白咲望空(しろさき のあ)。
高校三年、学校の頂点。笑えば誰もが振り返る“世界的美女”だった。
「えー?あんま盛れてなくない?脚もうちょい太くしたほうがリアルじゃん?」
のあは笑いながら、自分のスマホを机に置いた。
隣には、同じく圧倒的なオーラを放つ親友──美月唯愛(みづき ゆあ)。
「いや、盛れてるし。盛れすぎてて、私が無理ゲーになるからやめてくんない?」
「じゃ、次の撮影、ゆあと一緒に出る?“ダブルモデル企画”だって」
「え、やるやる♡恋たちも呼ぼうよ」
その言葉に、教室の扉が開いた。
「うわ、タイミング神w」
姿を現したのは、九条 恋(くじょう れん)──のあの彼氏。
彫刻みたいな顔立ち、長身、制服の着崩し方も完璧。
クールでやんちゃ、学校中の女子を沸かせる存在。
でも彼の視線は、いつだって──のあ、ただ一人に注がれていた。
「……おつかれ、のあ。今日もかわいすぎ」
そのまま、教室の真ん中で堂々と、のあの髪を撫でて、唇にキス。
「ばかっ……みんな見てるし……」
顔を赤くしたのあの横で、唯愛が笑う。
「はいはい、いつもの公開いちゃつき始まったよ〜」
そして、続いて現れたのは──望月 聖(もちづき あきら)。
唯愛の彼氏で、恋の親友。不良っぽさ全開のやんちゃボーイ。
「唯愛。おまえも俺にチューしとく?」
「しない。人前でやめてって言ってんでしょ?」
「じゃ、隠れてしようぜ?」
「……もう。ほんとチャラい」
──4人の、この完璧な関係。
誰が見ても、理想のカップルで、理想の友情で、
何ひとつ、壊れるはずなんてなかった。
だけど。
放課後、帰り支度をしていたのあに──
ある“非通知の着信”が届く。
「……誰、これ」
スマホを見つめる彼女の背後で。
1人の女子が、じっとその様子を見つめていた。
──橘 彩芽(たちばな あやめ)。
一軍の“友達”。だけど──心の奥では、何かが違っていた。
「……楽しいのは、今だけだよ」
彼女のつぶやきは、誰にも聞こえなかった。