『堕ちて、恋して、壊れてく。』 ―この世界で、信じられるのは「愛」だけだった。

『非通知の着信と、壊れはじめた音』



「のあ〜っ、一緒に帰ろ!」

放課後のチャイムが鳴ると同時に、唯愛が教室へ飛び込んできた。
のあは笑って頷きながらも、スマホから目が離せなかった。

“非通知着信(1)”

──心当たりは、ない。

(さっきの……誰だろう)

「ん?どした?顔、こわっ」

ゆあがのあの横顔を覗き込む。
のあは慌ててスマホの画面を伏せた。

「ううん、なんでもない」

「……まさか、恋くんじゃないでしょーね?」

「ちがうよ。そんなの、すぐわかるし」

にこっと笑って言ったけど、心はざわついたままだった。

恋は、そういう男じゃない。
どんな女にも冷たいし、のあの前でだけは、誰より甘くて、強くて、まっすぐ。
──なのに。

「……ねぇ、のあ」

廊下に出ようとしたとき、聞き覚えのある声が呼び止めた。

「彩芽……?」

橘 彩芽──一軍の仲間の1人。
派手な見た目と、器用な性格で、いつも場を盛り上げるタイプ。
でも……どこか、目が笑ってない。

「今日さ、放課後に見かけたんだ。恋くんが……誰かと話してるとこ」

「……は?」

のあの背中が一瞬、ゾクリとした。

「ううん。別に、変なことじゃないよ?
ただ……すっごく楽しそうだったからさ」

彩芽は、くすっと笑った。

「のあって、こう見えて独占欲すごいから。心配だなぁって、思って」

(……なんなの、これ)

ゆあが一歩前に出る。

「てか彩芽、それ誰と話してたの?」

「あ〜……顔までは見えなかったけど。
 ま、のあなら信じてるよね?彼氏のこと」

にっこりと笑って、スタスタと去っていく彩芽。
のあは、その背中を、無言で見つめるしかなかった。

(……わかってる。信じてる。だけど──)

再び手元のスマホが震える。

今度は、“非通知”じゃなかった。

《送信者:不明
 メッセージ:彼、ほんとに信用していいの?》

「っ……」

「のあ?」

ゆあの声が、遠くに聞こえた。

のあの目の奥に、黒い影が滲みはじめていた。
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