『堕ちて、恋して、壊れてく。』 ―この世界で、信じられるのは「愛」だけだった。

『“好き”だけじゃ、守れない夜がある』



「──のあ、大丈夫?」

助手席に乗ったのあに、恋がちらりと視線を送る。
いつもの甘い笑顔じゃない。
どこか探るような、少しだけ張り詰めた空気が漂う車内。

「……うん。ごめんね、急に」

のあは小さく微笑むけど、その声は震えてた。

「非通知で電話きたり、変なメッセージ届いたり……。
 彩芽も、なんか言ってくるし……」

恋の目が鋭く光る。

「……誰か、狙ってんだろ。お前のことも、この関係も」

タバコの煙がゆらりと流れ、のあの視界を霞ませた。

「なあ、のあ」

「ん?」

「今ここで──“大丈夫”って言えんの?」

「……」

「俺が、誰と話してたとしても。
 どんな噂が流れても。
 お前は、俺だけを信じるって、言えんの?」

のあの目が大きく見開かれる。

「だってさ。
 俺、お前が泣くと……ほんとに我慢できなくなんの」

低くて甘くて、でもその奥にあるのは、怒りと……執着。

「信じるよ。信じてる……」

のあの言葉に、恋がようやく、ほんの少し微笑んだ。

「……バカ」

そしてそのまま──
彼は手を伸ばし、のあの顎を掴んで引き寄せた。

「……ちょ、恋……!」

「声、出すなよ」

キス。

でもそれは、優しいなんてもんじゃなかった。

支配するように、執着を刻み込むように、
口づけは深く、苦しいほどに続いて。

「……んっ、ん……っ」

(……やば、息できない……)

ようやく離れた瞬間、のあは酸素を求めて息を吸い込んだ。

「……お前が誰に何言われても、俺が全部黙らせるから」

そう言って、のあの首筋にくちづけを落とす。

熱い舌先が肌に触れて、のあの身体がピクリと震える。

「……や、だ……れん、外……」

「……興奮してんの? のあ」

耳元で囁く恋の声は、甘くて、でも危うい。

「ほんとは……怖いことされたいんだろ」

のあの中に、どろどろとした感情が溶けていく。
愛されて、求められて、壊されて──
それでも「この人じゃなきゃダメ」って思ってしまう自分が、嫌いじゃない。

「……ずっと、そばにいて」

「当たり前」

彼は、さらりと言った。

「壊れても、俺が全部拾ってやる」

車の外は、もうとっくに夜だった。
でも、のあの中はもっと前から──真夜中みたいに暗くて、狂ってた。
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