アルト、猫カフェへ行く【アルトレコード】
「あの人、今、バッグの中に猫を入れたよ」
「え!?」
 私は慌ててそちらを見るが、男性がバッグを抱えているだけで特におかしいところはない。

 でも……ここはバッグの持ち込みが禁止だから、おかしいと言えばおかしい。
 折り畳みできるタイプのようだから、ポケットに忍ばせて持ってきたかもしれない。

 あの男の人は、と思い出す。
 入口ですれ違った人だ。女性と夫婦だと思ったけれど、ひとりで来たお客さんだったようだ。

「でも、猫が入ってたらバッグがもっと動くのかな」
「ペットAIは本物とは違うから……」
 持ち運びと安全のため、AIペットはバッグなどの中に入れたら自動的に停止する場合がほとんどだ。バッグに異変がないからといって、AI猫を入れていないとは限らない。

 男性は周囲を見回し、私と目が合うとハッとしたように立ち上がった。
 絶対におかしい。店員に言わないと。

 だけど、女性のお客さんに声をかけられていて手が離せないようだ。
 店員と話しているのは入口ですれ違ったうちのひとりだ。この女性はあの男性の奥さんじゃなかったんだな、と思うが、今はそれどころではない。

 私がおろおろしているうちに、男性はセルフレジでお会計を始める。
 もしかしたら店の関係者だろうか。
 でも、だったらあんなに挙動不審になっていないだろうし、お会計をしないのでは?

「先生、もしかして……」
「うん、そうかも」
 AI猫どろぼうかもしれない。本物に近いペットAIは中古でも高値で取引されている。
 店員さんはまだお客さんと話をしていて、こちらの様子には気付いていない。
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