最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。


 だからこうして部屋にいるときに別の部屋にいる使用人たちがわざわざ訪ねてくることもなく、完全に一人の時間になる。

 それでも唯一訪ねてくる人間がいるとすれば。


「あらあらあら。一等みすぼらしい格好の女中がいると思ったら……嫌だわ、姉様じゃない」

 キンキンと響く甲高い声が、紫陽の部屋の戸を開けて近づいてきた。

 紫陽は顔を上げ、静かにその人物の名前を呟く。


「綾目……」


 後ろに侍女を一人付き従わせ、上等な衣服に身を包んだ丸く大きい目の可愛らしい少女。

 涼風綾目。紫陽の三つ下の妹。

 幼い頃、紫陽と綾目は仲の良い姉妹だった。だが、綾目が才能を開花させ、涼風一族の中でも一、二を争う陰陽師だと囁かれるようになった頃から徐々にその関係は歪なものへと変化していった。

 両親を始め一族からの期待を一身に背負いこれ以上ないほど甘やかされてきた綾目と、霊力が少ないせいでで冷遇されている紫陽。この二人が並んでいるのを見て姉妹だと言い当てることができる者は果たしてどれほどいるだろうか。

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