最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。
綾目は、紫陽が丁寧に手入れをしていた刀を一瞥して、わざとらしくため息をついた。
「はあ……才能がないって本当に憐れよね。そんな大袈裟な道具を使わないと雑魚妖怪一匹祓えないんだもの」
「……」
「もういい加減陰陽師は諦めたら? 大人しくどこかに嫁入りする方がお父様もお母さまも喜ぶのではないかしら。ま、こんな愛想笑いの一つもできない暗い女を欲しがる殿方がいるのかは知らないけれど」
ねえ、と綾目に同意を求められた彼女の侍女がくすくす笑いながらうなずく。
残念だが、綾目の言うことを何一つ否定できない。
紫陽は鍛錬に長い時間を費やして、どうにか剣術の腕を磨いた。もし人間同士の戦国の世であればそこそこ功績を上げたかもしれない。しかし対妖となると、圧倒的な量の霊力のみで戦う綾目が紫陽の何倍も強い。
それに、刀を使った紫陽の戦い方はどうしても刃の届く範囲まで敵と間合いを詰めなくてはならない。霊力で遠距離からの攻撃が可能な他の陰陽師に比べてはるかに戦い方が制限される。