最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。
そんな紫陽のやり方は、他の陰陽師からすると原始的かつ野蛮に見えるそうだ。才能に溢れた綾目にとってはさらにそれが顕著だろう。
(そして暗い女というのもまた事実だものね)
紫陽は静かに目を伏せて気付かれないようにため息をついた。
もともと感情表現は苦手だ。それに加えて、幼い頃から両親からぶつけられる言葉から心を守ろうとしていたせいで、そもそも表現するべき感情自体芽生えにくくなっている。
「ま、山岡家の狸親父なんかは若い女大好きだから姉様でも喜んで妾に迎えてくれるんじゃないかしら。あそこお金だけはあるし、きっと姉様にちょうどいいわ」
「……」
「あらだんまり? せっかくあたしが姉様のためを思って提案してあげてるのだからお礼ぐらい言ったらいいのに。ねえ松」
「本当ですわね綾目様。こんな出来損ないの姉君のことを気遣われるなんて綾目様は本当にお優しい」
綾目の侍女は大袈裟にうなずいて、見下した目を紫陽に向ける。