最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 その後も二人は紫陽に対して散々嫌味やら何やらをぶつけ続けてきた。紫陽は内心そこそこ傷つきはしたものの、全く表情に出ないせいで反応を見ても面白みがなく、次第に飽きてきたらしい。


「あら嫌だ。姉様のせいで貴重な時間を無駄に過ごしてしまったわ。松、行きましょ」

「はい、綾目様」

「ああそうだ」


 そのまま部屋を出ようとした綾目は、直前で何かを思い出したように足を止めて振り返る。


「さっき父様が姉様のことを呼んでいたわよ。なかなか来ないものだから今頃お怒りじゃないかしら」


 ……そういうことはさっさと教えてもらいたかった。もちろんわざと教えなかったのだろうが。

 相変わらずキンキン響く綾目の笑い声が、離れの廊下を徐々に遠ざかっていった。







「遅い」


 父が普段過ごしている屋敷の中で最も広いこの部屋に、紫陽はほぼ立ち入った記憶がない。父親と顔を合わせて話すこと自体少なかったから当然だろう。

 案の定、苛立った父は紫陽が部屋に入るなり怒鳴りつけてきた。


「綾目に呼びに行かせたのはもう半刻近く前だぞ」

「申し訳ありません」


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