白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。
厨房内に漂う出汁の良い香り。いつも紫陽の食事に付いてくる汁物の香りだとすぐに気が付いた。
三人は何やら驚いたように顔を見合わせると、各々伸ばした首を縮めて、顔を胴体の位置に戻した。そして、今度はその体ごと紫陽の方へ駆け寄ってくる。
「何をおっしゃいます奥方様! わたしたちの方こそ、いつも残さず綺麗に食べていただけて、喜んでいたのですよ?」
「そうですよ。味が薄いだの野菜が大きいだの文句ばかり言ってくる奴らに奥方様の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいっていつも話していたんです」
「ええ、ええ。それに、奥方様ってば、杏が言っていた通りのとーっても可愛い素敵な方ですわっ!」
紫陽が思わず後退りするぐらい前のめりに、彼女たちはそれぞれに言う。
どうやら本心で言っているらしい、というのはその真剣な眼差しから何となく伝わってくる。
「ちなみに姐さんたち、紫陽様は『奥方様』よりも名前で呼んだ方が嬉しいんですよ。ね、紫陽様?」
「は、はい。できれば……」
「えー、本当ですか? じゃあ紫陽様って呼んじゃいます!」
「わたしもわたしも!」
「ねえ紫陽様、良かったら紫陽様も味見しますか? このままだと全部杏に食べられちゃいそうですし」
……何故、人間であり陰陽師である自分が、こうも妖に受け入れられているのか。
混乱した頭のまま、紫陽はとりあえず差し出された卵焼きを口にするのだった。