最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。
人間の中に、妖に対抗し得る者たちが現れたのだ。
妖に対抗し得る者たち──陰陽師は、人間でありながら妖と同じ霊力を持っている。
通常の物理攻撃がほぼ効かない妖は霊力によって祓うことができる。妖は自らも霊力を操る一方で、弱点もまた霊力なのだ。
そしてそんな霊力を持つ人間は、普通の人間の中から低い確率で突然生まれてくる。だが時間が進むにつれ、霊力の強い者同士の子どもは高確率で同じように強い霊力を持って生まれてくることもわかってきた。
そのため霊力の強い優秀な陰陽師を多く輩出し、大きな権力を持つ家がいくつも現れるようになった。中でも、ここ数十年優秀な陰陽師を輩出し続けている涼風家は、現在その頂点に君臨している。
──しかし、紫陽はそんな涼風家で高い霊力量を誇る両親の間に生まれながら、霊力はほんの微量しか持っていない落ちこぼれだ。
霊力の強さによって序列が決まる陰陽師の中では最底辺の地位。
元々持っている霊力の量は才能でしかなく、残念ながら努力で鍛えられるようなものではない。
陰陽師界の権威である両親は、才能の無い紫陽に早々に見切りを付けていた。物心ついたときから、親から優しい言葉も笑顔も向けてもらった覚えがない。